
2010年4月6日に新しい美術館が船出します。それも丸の内という東京の真ん中に。
「美術館」というものは不思議です。現在もまだ世界のいたるところでさまざまな形で成長しています。
西欧社会での創成期には、王侯貴族や資産家たちが収集した絵画や彫刻、工芸品を公開する施設でした。
それはやがて一般の市民たちが共有する財産となり、人々が美しい作品に接し、愉しみ、その体験を語り合うために集う、都市生活には欠かせない場所となっていきました。
そして今や、パリ、ロンドン、ニューヨークなどに代表される欧米の都市だけでなく、世界中の多くの街が、
劇場やコンサートホールとともに美術館を都市機能の中枢に置いています。
言わば美術館は都市の顔であり、美術という形を通して、人々が所属する街や地域など、共同体の歴史や文化の
あらゆる様相を窺い知ることができる、一種のステージ、情報センターのような存在なのです。
そうした中で、三菱一号館美術館の開館は、丸の内や東京、そして日本の美術シーンに何をもたらすのでしょうか。
現代の美術館にとって大切な、アクセスの容易さと建築自体の魅力という要件を、
この美術館が幸運にも生来そなえていることは僥倖と言わざるを得ません。
国際都市東京の中心部・丸の内のランドマークともなり得る1894年に原設計された煉瓦造りの低層棟は、我が国の都市型美術館には稀な独立した建物となっており、明治期の重厚なデザインが心地よい落ち着きを醸し出しています。三菱一号館美術館の企画展や作品コレクションも、こうした美術館の建物と立地がもつ地理的、歴史的特性を踏まえて出発します。
近代の西欧において確立した「美術館(Museum)」という施設は、作品の保存、研究、公開という活動をその原点に据えていますが、私たちの美術館は、この美術館本来の在り方を基礎としながら、「近代都市と美術」をテーマに、19世紀から20世紀初頭の美術を巡る展覧会開催を活動の中心にしていきます。
18世紀のフランス革命期以来、美術は市民のものとなり、さまざまな創作活動は都市の文化と密接に係わりながら生成していきました。また、産業革命を経験し、通信手段や交通など、あらゆる技術の発達に支えられた近代都市は、地理的、歴史的限定を超えて、激しい勢いで異文化の交流する場でもありました。環境問題、人種問題から個人の疎外の問題に至る、今日の文化が抱える問題の大部分も、この近代の都市文化から直接生み出されたものです。
今後三菱一号館美術館で企画・展覧される展覧会では、こうした複雑な近代都市に生きる芸術家たちが、社会との緊張関係の中から生み出した多彩な美術に焦点を当てていきます。
肩肘を張らず、ごく日常的な生活のリズムで訪れることができるけれども、一歩中へ入れば鮮烈な美、新たな価値観との出会いがある美術館、これが私の理想とする都市型美術館のイメージなのですが、三菱一号館美術館がこの理想に限りなく近づき、皆様から親しまれる存在となることを心から願っています。
2010年4月
三菱一号館美術館館長
高橋明也